■1月13日、当欄でネットオークションに暗躍するチャリンカーについてのレポートを掲載しました。チャリンカーの手口がいつ頃からあったのかはわかりませんが、この年末年始にかけて被害が急増したらしく、正月を過ぎてからマスコミに取り上げられたりもしました。チャリンカーにとっても、流通が停止する盆と正月は鬼門なのかもしれません。
 今日、大量のチャリンカー詐欺被害にあった人たちのコメントを眺めることができました。通常、こうしたネット詐欺師の評価欄は、利用停止とともに閉鎖されることが多いのですが、たまたま杉本一という人が使っていた一つのIDは、出品が削除されただけで評価が残っていました。杉本一のオークションID:gekiyasudvdは、6000を越す「良い」評価があり、今日の時点で500を越える「悪い」評価がついています。出品がヤフーによって削除されたのは十二月十六日で、十二月二十七日には彼の口座がトラブルが多く報告されている口座として発表されています。詐欺被害に遭われた人の中には、何度か彼から商品を購入して受け取っている人もいます。6000を越す「良い」評価を信用し、納期は遅れるものの格安で商品が購入できたことから再度取引をしたのです。転売を考えたのか、複数落札をして詐欺被害に遭っている人も多く見受けられました。杉本の出品は人気の高いデジカメで、店頭価格が5万円から8万円程度の商品を、3万円前後で落札できます。高額なプラズマテレビではなく、訴訟を起こすにも費用や手間を考えると泣き寝入りをせざるを得ない金額です。
 同時落札者が多くいることを逆手に利用し、出品者は落札者に対し、入金順に商品を発送するとメールで連絡していました。幾らか待たされることを覚悟していた入札者も、その文言を受けて迅速な入金をすることが多かったようです。ところがある日を境に、出品者から落札者へのメール連絡すら行われなくなります。チャリンカーは転んでも、次なる入金者を募らなくてはなりませんから出品しています。出品からオークション終了まで、最長7日間のタイムラグが生じるのです。チャリンカーが転んだ時期に落札した人たちは、落札の喜びを棒に振らねばなりませんでしたが、入金したくても入金先の口座が連絡されてこないのですから詐欺被害には遭わずに済みました。不幸なのは、チャリンカーが転ぶその日までに入金し、商品の発送を待っていた人たちです。しかしそうした人たちの不安を訴える評価は、この時点ではまだ評価欄に反映されていません。評価は取引が終了してから付けられるため、商品到着を待つ人たちは評価を入れていないからです。
 詐欺被害に遭った人たちは、詐欺師本人だけでなくヤフーオークションのシステム自体にも同様の恨みを抱いています。なぜこのような悪徳詐欺師に出品させているのかということと、そして悪徳詐欺師から集めたオークション利用料がヤフーの懐に入ることへの恨みです。ヤフーにしてみても、実際トラブルになってしまった利用者からは利用料の徴収ができなくなるので、正当に取り引きされていた分の利用料しか徴収できないわけですが、ヤフーにしてみればシステムのランニングコストを除けば損害はありません。
 さすがにヤフーも傍観しているわけにはいかず、1月17日からオークションで集めたお金で商品を仕入れる店舗以外の出品を禁じることにしました。店舗であれば予約商品の事前落札も可ですが、個人出品者ではそれができないようにしたのです。またエスクローサービスと呼ばれる、入金と商品発送を第三者が確認のうえやり取りする取引方法を選択している場合は除かれています。
 被害者が出てからようやくその後に安全策が講じられるのは残念ですし、落札者から集めた多額の金銭も多くは先に取引のあった人たちに発送した商品の購入代金に充てられています。被害届が出されて預金が凍結されても、多くの債権者が僅かに残ったそのお金を分配するしかありません。逮捕された詐欺師が被害者に弁済を約束しても、彼はまた新たな詐欺的手法で金銭を集めるよりほかないでしょう。
 ヤフーが1月17日に先物オークションの禁止を明らかにしてから、実際に出品削除を行い始めたのは2月1日以降です。その間もチャリンカーはオークションへの出品を続けています。さすがに報道等でチャリンカーの存在が広く知らされてから、落札はしたもののオークションの取り消しを申し出る落札者も見られますが、その一方で入金直後にきちんと落札者に領収書を送付し、領収書の到着を評価で入れさせている出品者が見受けられます。ただ、彼もこれまでのところ正当な商取引を続けているけれどチャリンカーであることに間違いはなく、いつしか破綻します。落札者は自分の商品が到着する時まで、チャリンカーが転ばず自転車操業を続けることを祈るしかありません。チャリンカー詐欺被害者が、オークションを主催するヤフーの責任を訴えていますが、チャリンカーを支えているのは他ならぬオークション主催者ヤフーであると同時に、そのシステムを利用した落札者の入金に他なりません。投資と言うよりばくちのつもりで入金するならともかく、本当に商品を購入する信用ある取引をしたいだけの人は、割安な価格で購入できる可能性に賭けてオークションに加わるべきではありません。私はこれまで100回以上ヤフーオークションを利用してきましたが、貧乏なことも幸いして1万円以上のオークションに入札したことはありませんし、妥当と思われる価格よりずっと低い金額で落札できたためしもありません。チャリンカーの出品を利用して、大変お買い得な買物をした人は、実際にはそれに匹敵する以上のリスクを抱えていたことを肝に銘じて欲しいとも思います。