■4月25日午前9時18分頃、兵庫県尼崎市のJR福知山線で、宝塚発同志社前行き快速電車(乗客約580人、207系車両)7両編成のうち前5両がカーブを曲がりきれず脱線し、線路脇のマンションに激突しました。これまでに死者81人、重軽傷者442人が確認されています。現場にはまだ原型をとどめないほど変形した車両の中に乗務員一名を含む十数人が閉じ込められており、懸命の救出作業が続けられています。
 現場は直線(制限速度時速120キロ)から半径300メートルの急カーブ(制限速度時速75キロ)に差し掛かった地点で、列車はこのカーブに時速100キロ以上の猛スピードで進入したことが事故車両に残されていた解析装置から判明しています。またJR西日本によりますと、脱線地点の手前の線路上に、粉砕痕と呼ばれる白い粉が付着しており、線路上に置石があった可能性も示唆されています。その一方で鉄道事故調査委員会の現場検証後の会見では、現場のレールにブレーキ痕はなかったとのことです。
 同列車は手前の停車駅である伊丹駅オーバーランのため1分30秒の遅れを生じており、遅延回復のためにスピードを上げて走行したとみられています。当初車掌は運行司令室にオーバーランした距離を8メートルと報告していましたが、実際には40メートル以上のオーバーランだったことが明らかになりました。
■安全装置
 同路線にはATS(自動列車停止装置)が設置されていますが、都市部から設置が広まっている速度制限機能つきの新式のATS−Pではなく、赤信号で列車を停止させる旧式のものでした。また脱線の抑止に効果があるとされる補助レールも設置が義務づけられている半径200メートル以下という基準より緩いカーブであるために取り付けられていませんでした。
置石
 脱線地点の手前のレールに粉砕痕と呼ばれる白い粉が付着しています。これはレール上にあった何かを車輪が踏みつぶしてできたもので、今の時点では何を踏みつぶしたものか判明していませんが、レール上に故意に石が置かれていた可能性が指摘されています。ただし脱線した車輪が後ろ向きに敷石を弾き飛ばしたとも考えられます。
 同路線は住宅密集地を走っており、線路脇にフェンスは設けられていますが、第三者が入り込むことはできたようです。ところが脱線した快速列車が通過する4分から4分半前に特急列車が通過しています。その特急列車や脱線した快速列車を現場で目撃していた人がいますが、線路内に入っている人はいなかった、と証言しています。
オーバーラン
 同列車は伊丹駅でのオーバーランのために1分半の遅れを生じました。その遅延回復のためにスピードを出していたと見られていますが、通常運転士が制限速度を超えて走行することは考えられません。オーバーランの原因としては、制動の掛け遅れ・ブレーキ故障などが考えられます。制動の掛け遅れは単純な操作ミスというばかりでなく、編成両数や乗降客の増減による車両総重量によって制動距離が変わってきます。空車状態では充分停止できる位置から制動をかけても、満員電車では止まりきらないということです。運転士の技量というのはそういう点まで含めて運転できるかどうかということになると思います。
 その一方で車両の制動装置に故障や不具合があったとも考えられます。運転士がそれに気づけば対応も可能ですが、確信が持てないまま運転を続けていれば、制動を掛けても実際の制動が遅れるということを繰り返すだろうと思われます。列車には複数系統の制動装置があり、一つの制動機構が故障しても減速や停止は可能なように設計されています。ただし乗務員がその措置を取らなければ意味はありません。実際、伊丹駅で40メートルのオーバーランが生じた際、車掌は義務づけられている非常ブレーキ操作を行っていませんでした。
 オーバーランの距離を実際よりも短く虚偽報告したのは、運転士・車掌ともに過失があったために両者で合議したからだと言われています。
■運転士
 同列車は運転歴11ヶ月、勤務歴5年の23歳の運転士が運行していました。彼はこれまで車掌時代に2回、運転士になってから1回の計3回の訓責処分を受けていました。JR片町線上狛駅で数百メートルオーバーランした際は一旦運転業務から外され、講義を受けて再検査を受けています。こうした点から運転士としての技量に疑問が持たれるか、逆に約1年の運転経験があるから必ずしも技量が未熟とは言えないのかは意見が分かれるところです。
 ただ、この日の運転に関して、生存者の証言からは、オーバーランしただけでなく後戻りする際も運転が急激で雑であり、その後も回復運転で速度を出しすぎていて怖いくらいだったという声が上がっています。事故が起きたことでこうした証言になったとも考えられますが、彼の運転技術についてはこれまで同乗経験のある車掌なら良く知っていることと思います。