■死者107人、重軽傷者460人を出す大惨事となったJR福知山線脱線事故は、カーブ区間でのスピードの出し過ぎによる転覆脱線との見方が強まっています。遠心力で内側の車輪が浮き上がり、脱線して片輪走行の状態でマンションに突っ込んだもの、と見られています。
 ところで、列車の運転士が制限スピードを超えるということは通常考えられていません。列車運行制御装置などで、制限速度を超過することができないよう制御されている場合もありますが、制限速度は乗客の乗り心地を考慮して定められており、速度を超過すると乗客からクレームが来てもおかしくないからです。
 生存者の証言を総合すると、先頭の車両では急カーブで突然列車が脱線し、そのショックで乗客が投げ出されたようです。列車が転覆しかねないような危険なスピードであったにも関わらず、脱線を予期させる前兆はなく、列車は何のためらいもなくカーブに猛スピードで突っ込んで、あっけなく脱線したようです。
 脱線の要因として急ブレーキが掛かったことで車体のバランスが崩れたのではないかとする専門家もいます。レールや車輪にブレーキ痕が残っているかについては調査中ですが、前後方向の荷重変化は脱線を引き起こす横向きや上向きの力が加わったこととさほど関わりがあるとは思えません。もちろん機械ですから、ブレーキ時に必ずしも両輪に等しくブレーキ圧が加わったかどうかについては議論の余地はありますが、列車の車輪は両輪が車軸で直接繋がっていますから、遠心力が強く掛かっている外側の車輪にも、遠心力とフランジに外輪が引っ掛かっていることで浮き上がった内側の車輪にも等しくブレーキの力は加わるものと考えられます。それで外側の車輪とレールの間だけに極端な摩擦力が加わったとしても、それにより脱線が引き起こされる要因となったとは思えません。
 従って何故列車が脱線したのかを考える時には、なぜ運転士はカーブに進入するにあたって、適切な制動操作を行わなかったのかについて検証した方が良いように思います。そしてその理由としては、

  • A「制動操作を怠った」
  • B「制動系統が故障していた」

の2点が考えられるのですが、これまで事故車両からブレーキ故障の痕跡についての報告はありません。ですから今後そのような報告がなければ、Bの可能性は捨てても良いことになります。
 そしてなぜA「制動操作を怠った」かを考えてみますと、

  • A-1「単純な操作ミス」
  • A-2「運転士が敢えて制動をかけなかった」

のいずれかになります。A-1には運転士の適正や経験などの背景があるかもしれませんが、結果的に単に適正な操作ができなかったということに過ぎません。人間誰しもミスを犯すことがある、ということです。
 それでは最後に残ったA-2「運転士が敢えて制動をかけなかった」について考えてみたいと思います。私が可能性として考えているのは以下の二つです。

  • A-2a「運転士は多少速度を超過してもカーブを走り抜けられると考えていた」
  • A-2b「運転士は速度超過による危険を予見していたが、敢えて制動をかけることをしなかった」

このうち、A-2aについては「操作ミス」に似た「判断ミス」ということになります。A-2bは、その日運転ミスを重ねてしまったことで運転士を降ろされるかもしれないと考えて「自暴自棄になった」ということが考えられます。