■先月この欄で、幾度か元二子山親方死去に伴う元若乃花貴乃花親方との確執を取り上げました。平成の大横綱であった貴乃花の勝負に掛けるストイックな姿と、ワイドショーに出演して兄花田勝との確執について語る露骨な姿との格差に言いようのない違和感を覚えたからです。そして私は貴乃花が平静を装いながらも取り乱したかのようにワイドショーで熱弁を奮わずにいられないのは、二子山部屋を継いだ貴乃花が、父親の逝去による遺産分割により法的に、自分が継いだものとばかり思っていた稽古部屋の土地建物や年寄株相撲協会から離れた兄花田勝に半分を奪われてしまう事に対する不平や不満、そして怯えを兄弟間の確執という形でマスコミを通じてアピールしているに他ならないと思いました。
 そもそも二子山親方が離婚していなければ遺産はそのままおかみさんのものとなり、おかみさんが相続した二子山親方の遺産を部屋の継承者である貴乃花に譲渡すればすんなり話は済んでいたのだろうと思います。ところが実際には二子山親方は離婚し、兄は部屋を興すことなく相撲協会から離れました。その結果貴乃花には親父が死んだことで別れた元妻や愛人、そして相撲協会を離れた兄が寄ってたかって自分の取り分を奪い合おうとしていると思ったのではないでしょうか。
 ところが二子山親方の三十五日法要が終わった四日、兄の元若乃花は弁護士を通じて、父二子山親方の遺産相続を放棄する旨の法的手続きを行ったと発表しました。相続放棄については二子山親方と元若乃花が、生前に話し合って決めていたそうです。そして法要が一通り終わるまで、兄花田勝は遺産相続の話をすることを控えていたということのようです。この間貴乃花は疑心暗鬼に駆られてインタビューに答え、ワイドショーへの出演を繰り返す一方で、兄花田勝はプライベートな事項であるために発言は控えたいと一切口をつぐんでいました。何も世間に公表しなくとも、弟に全てを譲ることになっているから安心しろと一言言っていれば、貴乃花もあそこまで親族の誹謗中傷を振りまかずに済んだのではないかという気もしないではありません。けれどそういうやり取りがなされないところが貴乃花の言う兄弟間の確執ということなのかもしれません。また貴乃花が兄花田勝に決定的な不信感を抱いていれば、兄に口頭でそう言われたところで実際の法的手続きがなされていない以上端っから信用しなかったかもしれません。兄は弟のそういうところまで見越したうえで一切の発言を控えていたのかもしれませんし、さらに一人暴れ回る弟が結果的に世間から非難を浴び相撲協会からも快く思われない事態を招いたとしても、この先長い弟の相撲人生を思えば良い薬になると考えたのかもしれません。
 いずれにしても兄の相続放棄で兄弟の確執問題は一気にけりがつきました。この間弟の攻撃に一方的にさらされた兄は、世間から悪者扱いされていました。弟が言い過ぎているという印象を与えたことを差し引いても、話し合いに応じようとせず一切口をつぐんだままの兄は、何か腹黒いたくらみを抱いているのではないかという心証を与えるに足る口撃がなされてきました。ところが全てを放棄するとした兄は、最後に弟に対して見事なまでのクロスカウンターを最後に放ち、弟を完膚無きまで叩きつぶすことになってしまいました。
 貴乃花若乃花はかつて優勝決定戦で一度だけ兄弟決戦をしたことがあります。貴乃花若乃花の寄りに、腰がくだけたように倒れて決着がつきました。その一番についても弟は親方から兄に優勝を譲ることを示唆されたかのような発言をしていました。優勝決定戦でも遺産相続の件でも、兄は負けた言い訳を垂れ流す弟を尻目に二つ見事な勝ちを収めたようです。