夏の全国高校野球大会で二年連続優勝を果たした南北海道代表の駒大苫小牧高校で、野球部部長の部員に対する暴力行為があったと高野連に報告しました。学校長に部員の親から暴力行為があったとの連絡があったのが大会開催中の八月八日だったということですから、大会が終わるのを待って事実関係を調査したところ、暴力行為があったことが認められたので二二日の夜に発表された、ということなのだと思われます。既に学校は暴力行為をはたらいた二七歳の野球部部長を謹慎処分にしたとのことです。
 ちなみに高知県でも、地方大会終了後明徳義塾高校で部員による暴力行為が発覚し、出場を辞退しています。
 さてこの一件には様々な問題が絡んでいるように思います。
     A 運動系の部活における暴力行為について
     B 学校が連絡を受けてから調査・報告に時間が掛かっている点
     C 駒大苫小牧が優勝したという記録の扱いについて

A 運動系部活での暴力行為は個人間の恨みではなく、指導や制裁としての側面もあるように思います。もちろんどのような理由であれ、暴力は許されないことです。しかし運動系の部活そのものが、暴力行為を誘発しやすいという性質を持っているのかもしれません。また暴力行為として問題にされない、上級生によるしごきというものも未だ多く残っているに違いありません。また目に見える暴力でなく、圧力やいじめも横行していることでしょう。
 部活が練習や技術習得の場であるだけでなく、上達や試合に勝つために精神論的な考えが持ち込まれていることがそうした暴力というかたちで指導や制裁を行わせているように思います。またすぐに負けてしまうような弱いチームでなく、甲子園出場や全国制覇や連覇を勝ち取るような強いチームでこうした事件が発覚していることからも、精神論的な考え方がチームの強さと正比例して信じられ実行されているようにも思います。

B 学校長が生徒の親から暴力行為があったとの連絡を受けたのは大会期間中でした。連覇を目指して甲子園に乗り込んでいるチームに、そうした問題を持ち込んでチームの雰囲気に水を差したくない、と思わなかったとすれば嘘になるでしょう。学校長の会見では、実際にいつから事実関係の確認に乗り出したかについての言及はなかったようですが、連絡から発表までに十六日間が掛かっていますから早急に対処した、とは言えません。学校長は大会が終わってから事実関係の確認を始めたのではないか、との疑いが残ります。
 また、大会開始前に出場を辞退した明徳義塾高校の場合と違い、既に大会が始まっていますから、仮に出場を辞退することになると既に対戦カードが決まっていれば不戦勝ということになります。それはそれで過去に例をみない不祥事の結果ということになってしまいます。大会出場も教育の場だと考えるなら、不祥事による中途での出場辞退は教育者として忍びない事だったのかもしれません。そして事実、駒大苫小牧高校は勝ち続け、とうとう二年連続優勝という偉業を成し遂げました。

C これは高校野球連盟の問題です。出場停止が避けられないような事件が大会前に起こっていたとしても、駒大苫小牧高校は甲子園に出場し、優勝しました。しかし後から不祥事が発覚したことで、この優勝を取り消すことに意味があるとは思えません。公式に記録が残るということにどれほどの意味があるのか判りませんが、ドーピングにより優勝が取り消されて金メダルが剥奪され、次点の選手が繰り上げ優勝となって代わりに金メダルが授与される、ということと同じようには扱えないような気がします。
 仮に今回の事件に対する制裁や処分が行われるにしても、既に起きた結果を取り消すのでなくこれから先のことでそれを行うべきだと思います。具体的に挙げれば向こう○○ヶ月間の対外試合禁止であるとか、次回の大会の出場停止であるとか、優勝旗の返還であるとか次の大会の優勝校行進には準優勝校のキャプテンが優勝旗の返還セレモニーを行う、などになるかと思います。対外試合禁止や出場停止処分は問題ありませんが、優勝旗を返還するのはともかくとして、優勝校を駒大苫小牧にしたまま優勝旗を準優勝校に託すわけにはいかないかもしれません。私は個人的にはそれを準優勝校の役目として担ってもらっても良いのではないかとは思いますが、その意見が多数派に指示されることはないような気がします。優勝旗を準優勝校に託すのであれば、準優勝校を優勝に繰り上げないと筋が通らないと考える人が多数を占めることでしょう。
 ただそれと同時に、不祥事とは関係なく駒大苫小牧ナインは甲子園で戦い、栄冠を手にしました。これは四万人超の観客とテレビ観戦していた何百万の人が眼にして知っている事実です。高野連がどんなナンセンスな裁定を下したとしても、栄光は駒大苫小牧ナインの頭上にあることには変わりはないと思います。

■補足
 ・学校が連絡を受けてから調査・報告に時間が掛かっている点について確認したところ、学校側と保護者側とで言い分が違っているという興味深い報道がありましたので補足しておきます。
 学校側は高野連への報告を「保護者から大会後にして欲しいと再三要求された」と言い、一方の保護者(被害者の父親)は「そういう要請を自発的に行っていない」と言っています。いずれにしてもここから両者間の間で、「報告を大会後にしてはどうか」という話が持たれたということはわかります。どちらからそのような働きかけがあったのかはわかりませんが、どちらかがそのような意向を持ち、そう持ちかけられた方が結果的にそれを認めるような形になったようです。もちろん保護者が強くそう求めたとしても、学校側が高野連への報告を早急に行うべきだと突っぱねることもできた筈ですが、いずれにしても学校側は報告を大会後にするよう働きかけたか、或いは報告を早急に行おうとはしなかったということは確かなようです。
 さらに高野連にこの話が伝わったのは二二日の夜に週刊誌記者によってであり、校長から高野連に連絡が入ったのは二三日になってからのことだったようです。学校側の対応が常に後手を踏んでいるのは、単に対応が遅いだけなのか或いは恣意的に物事を隠蔽しようとの体質ゆえなのかわかりませんが、今後高野連が暴力事件そのものよりも対応の遅い学校側の態度をより問題視する可能性は高いように思われます。
 ちなみに前例からすると、部員間での暴力事件や喫煙などが発覚した場合には対外試合の禁止などの処分が行われますが、指導者から部員への暴力事件に際しては当事者の謹慎処分のみが行われることが多いとのことです。