日本シリーズ第四戦 

■2005年日本シリーズ第四戦 阪神タイガースvs千葉ロッテマリーンズ
ロ 020 100 000 :3 ●セラフィニ−小野−藤田−薮田−S小林雅
神 000 000 200 :2 ○杉山−能見−福原−ウィリアムス−藤川−久保田

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 中盤までは均衡していながら、六回・七回にビッグイニングで大量得点を挙げて三連勝したマリーンズ。金本・今岡の打棒が沈黙したまま、タイムリーヒットによる得点すら挙げられないタイガース。私は一九八九年、近鉄に三連敗して「(パリーグ最下位の)ロッテよりも脅威を感じない」と加藤に言われた後、四連勝してシリーズを制したジャイアンツを知っている。マリーンズナインもマリーンズファンも、タイガースファンも、このままでは終わらないだろうとの予感を抱いて迎えたシリーズ四戦。しかしタイガースのナインだけは違った。「このまま終わるわけにはいかない」
 思えば今年、ペナントレースを争っていたタイガースナインは、「一昨年の忘れ物を取りに行く」と早くから日本一を意識していた。マリーンズももちろん日本一を目指していたには違いないが、リーグ3位からプレーオフでホークスとの死闘を勝ち抜いた彼らにとって、セリーグの人気球団に挑む挑戦者としてシリーズを迎えていた。一方のタイガースにとっては負けられないシリーズである。蓋を開ければ結果こそ大量リードのワンサイドゲームではあったが、マリーンズナインは勝ってなお、兜の緒を締め直して第四戦に挑んでいた。けれど彼らには、今日か明日勝てばそれでいいと思える余裕があった。
 必勝のマウンドを託されたのは杉山。一方のマリーンズはセラフィニ。シーズン中盤まで先発の柱だった小野を中継ぎに回したマリーンズは、セラフィニか明日の黒木で日本一を決めようと計算していたと思う。一方のタイガースはどうか。今日のゲームで福原を温存できれば明日の先発に回せるかもしれない。けれど今日のゲームで福原をつぎ込めば明日は中四日で再び井川を立てるしかなくなってくる。もちろんそんなことを言っていられないほどタイガースは全てにおいて余裕がない戦いを強いられていた。
 初回、タイガースはいきなり無死一・二塁の願ってもないチャンスを作る。しかも鳥谷の送りバントが絶妙で、結果的に自分も生きることができたのだから、風は間違いなくタイガースに吹いていた。
 そしてクリーンナップを迎える。誰もが今日のタイガースは違うと期待したに違いない。シーツには当たりが出てきている。金本・今岡も今日は打つだろう。そしてその後にはもっとも当たっている矢野も控えている。誰もが今日こそタイガースの先制シーン、大量得点シーンを見られるに違いないと思った。しかしシーツの打球はショートライナー、金本はレフトフライと、得点はおろかセラフィニにプレッシャーを与える進塁すらさせないまま、ツーアウトから今岡もサードゴロに倒れてしまう。
 この時点で私はマリーンズの四連勝を確信した。今日も試合が終わってみればマリーンズが一方的な大量リードで日本一を決めるだろう。しかし思ったように事は運ばなかった。
 先制したのはマリーンズだった。李の2ランとタイムリーで3点。しかしタイガースにも待望のタイムリーが出て2点を返した。ゲームは緊迫しているし、タイガースの2点目はバウンドが代わってセカンドの体に当たった打球が外野まで転がった。マリーンズも李の先制の後、フランコが外野を抜けそうな打球を好捕球するなど、試合はどちらに傾いてもおかしくない展開だった。そんな中、勝ちを逃すプレーも見られた。外野フェンス直撃の当たりにサードを狙ってアウトになった李と、出塁しながらセラフィニの巧妙な牽制でアウトになった矢野、そして最終回に小林雅英から無死のランナーを出しながら、バント失敗の小フライを打ち上げた矢野と、塁に戻れなかった久慈の判断ミスだ。緊迫したゲームではミスが多いチームが負ける。
 シリーズ四戦ははじめてタイガースがマリーンズと互角の戦いを繰り広げた好ゲームだった。しかし既に三勝を挙げているチームに対して虎の目覚めは遅すぎ、結局一度もマリーンズの勢いを凌駕することはできなかったのである。