姉歯建築設計事務所が構造計算を担当したマンションやホテルが、現行の耐震基準を満たしていなかったことがわかり問題になっています。一部のマンションに対しては行政から退去勧告が出され、問題のホテルも営業停止を余儀なくされています。
 特に、株式会社ヒューザーが発注・販売、木村建設が施工、姉歯設計事務所が設計、イーホームズが建築確認した首都圏で販売された一連のマンションでは、退去を余儀なくされた住民と販売主であるヒューザーとの間で今後の対応が問題になっています。
 ヒューザーは首都圏で展開しているマンションで、同業他社より安い分譲マンション販売で業績を伸ばしていました。この価格の安さは耐震基準を下回る設計により実現されていたのではないでしょうか。構造計算の数値を改竄した姉歯一級建築士は、建設会社から使用する鉄骨を少なくするようにとの指示を受けていたとマスコミのインタビューに答えています。それで建築士がインチキの片棒を担ぐ必要はないわけですが、それに従わないと設計担当を他の建築士に鞍替えすると圧力をかけられ、これに従っていたようです。
 当の建築を担当した木村建設は、構造計算の改竄が明るみになってすぐに、銀行から資金を引き上げられ不渡りが出たために業務を停止し、倒産に向けた処理を行うとともに従業員全員を解雇しました。倒産の直接的原因は取引銀行間との資金の問題ですが、その対応の早さには問題が明るみになった際には、言い逃れもできないと倒産による責任回避を予め想定していたのではないかとの疑いも残ります。
 また、確認申請を担当したイーホームズは、設計事務所によるデータの改竄を見抜かなくてはならない立場にありますが、結果的にこの確認申請が通ったために改竄されたデータでの建築にGOサインが出されたことになります。この確認申請はこれまで行政が担当していたものですが、最近になって民間に委託されるようになったものです。行政が担当していてもデータの改竄を指摘できたかどうか疑問ですし、実際に確認申請を行った平塚市は耐震基準を満たさない建築の確認申請を通してしまっています。しかし責任の一端を行政が担っている場合と全てが民間で行われた場合とでは、問題発覚後の対応に違いが出てくるのではないかと思います。少なくとも、民間の業者のように倒産してしまって責任を負えなくなるということは行政にはあり得ないからです。
 問題のマンションに入居している住民に対し、販売主であるヒューザーは当初、全入居者の買い戻しはとてもできないので、退去に要する費用を全額負担したうえで、問題とされたマンションの建て替えを行うという方針を示しました。ところがそのためには少なくとも150億円もの費用がかかり、これをヒューザー一社で担うことができないため、販売価格の106%で買い戻すと方針を改めました。ところが、その買い戻し条件の中身が、所有権が住民からヒューザーに移るばかりでなく、ローンを立替えて支払うだけでローンの負担全てをヒューザーが引き受けるのでない重畳制であることがわかり、住民はこれを拒否しました。ヒューザーが倒産した場合、土地建物の所有権がなくなるうえにローンの支払い義務だけが残るという条件であったためです。さらに翌日の説明会では106%での買い戻しが困難であるとの理由から、103%での買い戻しへと条件が変更されています。ヒューザーは住民への補償を行いながら業務を続けようにも、資金繰りの目処が立たず、年内に倒産する可能性も避けられないと考え始めたようです。
 この件に関しては、ヒューザー国土交通省に、また一部のマンション住民グループも東京都へ支援を要請していますが、そのどちらも公的な支援には基本的に応じないと表明しています。不動産取引業者や建築業者は都道府県の認可を受けていますから、さすがに全額の負担は無理でも一部の費用負担に応じても良さそうに思えるのですが、欠陥マンションを販売した業者を救済する必要はなくとも、悪徳業者の被害に遭った住民には何らかの補償はないものなのでしょうか。また公的な支援がなくとも、マンション業界や建築業界でこうした住民に対する補償の方法はないものか、とも思われます。
■マンション住民の補償や賠償について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。販売したマンションに構造上の欠陥があったのですから、販売者であるヒューザーは購入者に対し100%補償しなくてはなりません。仮に耐震偽装の責任が設計者や施工主、もしくは建築確認を行った業者にあるとしても、それは販売者と各業者間の問題であり、マンション住民に対し責任を負うのは販売者ということになります。ところがヒューザーは買い戻しをする資金が足りないと言われていますから、購入価格のほぼ全額が購入者に戻ってくるような円満解決はまず望めないと思われますし、最悪の場合はヒューザーが倒産してしまい、購入者は他の債権者と一緒に債務者に残った資産を分け合うことになります。この場合債権の金額比率や債務者の資産が問題になるわけですが、銀行からの借り入れが多くあるのであれば資産の大半は融資した銀行に抑えられてしまうと思われます。ですので購入者はいち早く民事上の手続きを取ってヒューザーと社長の資産の保全を行った方が良いかもしれません。
 明白な詐欺行為であっても、加害者が破綻してしまったような場合は被害者は結局泣き寝入りするほかありません。マンションの販売会社が巨大な資本を持つ大会社であったり、系列に銀行があるような場合には、今回のようなケースでも住民が納得できる補償が行われたことでしょう。これは被害者に瑕疵や落ち度の有無に関係なくひとえに加害者側の資金力の問題です。もちろん加害者側に巨大な資金力がなくとも、問題になるようなマンションが構造計算にミスがあった一ヶ所だけというのであれば、どうにかなったのかもしれません。今回の場合は加害者に巨大な資金力がないことと、多くのマンションで恣意的とも思えるような欠陥があったことが、補償の大きな支障になっています。
 マルチまがい商法や確実に高利が約束されている健康食品販売への融資というような場合は言うに及ばず、元本が保証されていることが謳い文句だったり、確実に高利が見込める金融商品への投資で勧誘者が破綻して損害が発生したような場合には、被害者にも幾らかの落ち度があると考えられがちです。消費者団体や消費者相談センターはそうした業者名を公表して注意を呼びかけることはしてくれても、その時には既に多くの被害者が発生していて補償も見込めないような場合がほとんどで、またそうした団体は被害者の損害を補填してくれたりすることはありません。
 それでも被害者にも幾らかの落ち度があると考えられるような場合は、そうした損害が出てしまったことも自己責任の範疇だと諦めざるを得ないのかもしれませんが、都道府県の認可を受けている企業や公的機関から審査を委託された民間業者が認めた建築物を購入するというようなケースには、自己責任という言葉は相応しくないように思います。マンション購入のような一件当たりの被害金額が大きいことや被害者が多く発生していることも考え併せると、何らかの救済措置が行なわれてしかるべきではないかと思われます。
 今回の耐震偽装マンションの場合は、震度五強以上の地震で最悪の場合建物が倒壊する危険性があるとされていますから、金銭の補償とは別に住民の生命の問題もあるのです。仮に行政が金銭の補償に関わり合うことはできないとしても、地震の被災者向けの住宅を建設して住まわせるような対応は必要だと思います。もちろん購入したマンションのように、交通の便が良くさらに広い専有面積を持つ住宅は無理だとしても、入居者の人数に応じた一時的に生活をするのに支障のない程度の住居を、無料とは言わないまでも格安で提供しても良いように思います。
 住人にしてみれば、多額のローンを組んでいるにしても購入に際しては販売者に購入価格の全額を支払っているわけですから、契約を白紙に戻して支払った額を返してもらいたいに違いありません。販売者が業務の運転資金を銀行などからの融資に頼っているのであれば、支払ったお金は販売者の手許に残らず、銀行への返済に充てられていることになるのでしょうが、欠陥マンションの購入者だけが泣きを見て、欠陥マンションを販売するような業者に融資した銀行には全く罪も責任もなく損害も発生しないというのでは割り切れない思いだけが残ります。
■安物買いの銭失いという言葉があります。ヒューザーが販売していたマンションは、他の業者のマンションより同じ面積でも数百万から数千万の単位で安かったと言われています。後発の中堅会社だからマージンを極力少なくするなどの企業努力で安くしているとか、業界でもトップの伸び率を示している有望な会社だからこそ実現できる価格だと説明されれば、疑いの目を向けることなく掘り出し物だと喜び勇んで購入に乗り気になってしまうのもやむを得ないかもしれません。
 バブル期には、マンションは投機の対象にもなっていました。本来人が生活するための住居であるマンションが、三〇〇〇万円で買ったものが一年後には五〇〇〇万円で売れるからと、金儲けの手段として飛ぶように売れたことがありました。仮に価格が下がって、数千万の損が生じたとしても、生活するために購入した人には生活の場所が残ります。しかし倒壊の危険があり、行政から退去するよう言われるようなマンションには、もちろん資産価値などありません。
 安いマンションと言っても、購入者にしてみれば庶民の夢を実現できるマイホームであったことに代わりはありませんし、他のマンションと比較すると安くても、それは安い買物などでは決してなかった筈です。実際、他社のマンションにはとても手が出ないけれども、このヒューザーのマンションなら何とか手が届く、という思いで購入に踏み切った人も多くいたのではないかと思います。
 その時に何故、他の会社の分譲マンションは同じ条件でここより高いのかということを考えなかったのでしょうか。ヒューザーのやり方が成功しているのであれば、どうして他の会社も同じ方法で同じ価格を実現させないのか考えなかったのでしょうか。
■折しも今日、国会で耐震偽装マンション関係者に対する国会の参考人招致がありました。偽装設計の大元である姉歯建築士は精神的に安定した状態ではないという理由からこれを欠席しました。そのやり取りの中で、イーホームズの藤田社長が、姉歯氏の設計に問題があることに気づき、これを明らかにすることについてヒューザーの小嶋社長から圧力があったとの発言がありました。これに対し、参考人控え席に着いたままの小嶋社長が「ふざけるな!」と声を荒げ一喝する一幕があり、参考人は静粛にするようにとの注意がなされました。
 先日のテレビ朝日サンデープロジェクトに出演した際にも、ヒューザーの小嶋社長はCM中に偽装マンションの問題点を指摘した中村幸安建築士を怒鳴りつけていました。テレビカメラや他の出演者がいる前で、また国会に参考人の一人として呼ばれながら自らを批判する立場の人間を恫喝するようなことができる人間は、日頃から同じ事を日常的に繰り返しているのではないか、と思われます。テレビカメラの前では殺人マンションを売るようなことはしたくないと言いながら、社員の前ではとにかくマンションを売ってこいとか、売れるマンションを作るにはどうすればいいかとか、そんなことばかり考え、思うように動かない社員や業者をこのように怒鳴りつけてきたのがこの小嶋社長ではないでしょうか。
 積極的にテレビ出演を繰り返した当初は、住人のことを第一に考えているというポーズを取っていた小嶋社長は、今は掌を返したように引っ越しの費用やホテル代に細かな条件をつけ、買い戻し条件についても何とか自分が生き残る道を模索して二転三転しているようにしか見えなくなってきました。国会議員を通して国土交通省に渡りをつけようとし、マスコミについても利用できるうちは積極的に出演を繰り返し、そのマスコミが自らの批判を始めたと見ると、俺は民放には何も話さないと態度を変えました。
 仮に小嶋社長が直接耐震基準を偽装するよう指示を出したわけでなくとも、この小嶋社長の経営姿勢が耐震偽装を行なわせた元凶のように思われます。また建築に際して検査がある限り、耐震偽装マンションが施工されたのは検査機関の側に問題があるのだと言い逃れができると最初から考えていたのではないでしょうか。
 仮に小嶋社長が本当に耐震基準が偽装されていたことを知らなかったとしても、その責任の所在は彼にあることに間違いありません。それを小嶋社長流の責任の取り方で終始させて、偽装マンションを買わされた住人を泣かすのでなく、国会がその問題を取り上げた以上は行政府がリードして、被害者を少しでも救済できる方法で小嶋社長にきっちり責任を取らせるべきだと思います。