アメリカのアポロ計画は、人類初の月面着陸を成し遂げた輝かしい功績を残しましたが、その最初は訓練中の火災により乗組員3人が焼死するという痛ましい事故で幕を開けました。当時のアメリカの宇宙船内には100%酸素が満たされる仕様になっていました。地球上の大気のように窒素が含まれていると、無重力下の乗組員の体内で悪い影響を及ぼすと考えられていたのです。これにはそれ以前のジェミニ計画以来踏襲されており、実績のある方法でした。
 けれども宇宙船内には総延長50キロにのぼる電気コードが張り巡らされており、コードの絶縁被膜に負荷が掛かったりして火花を生じると、酸素で満たされた船内では爆発的な燃焼が生じる危険性があります。アポロ1号では、まさにその恐れていた事態が発生してしまったのです。火花が発生してから僅か45秒間ほどの間で、猛烈な炎は乗組員の宇宙服を焼き、乗組員の宇宙服同士を付着させ、乗組員は全員重度の火傷により死亡しました。
 同時期にソ連でも月面着陸を目指した宇宙開発計画が行なわれていました。ソ連の宇宙船はソユーズと呼ばれ、アメリカはアポロ計画が終了するとスペースシャトルへと計画変更されましたが、ソユーズ宇宙船はソ連が崩壊しロシアになった今でも使用されている信頼性の高い宇宙船です。
 しかしソ連ソユーズ1号も、乗組員の死亡という痛ましい事故に見舞われました。ソ連の宇宙船はアメリカと違って高度な自動操縦システムが用いられていました。比較するとアメリカの宇宙船では乗組員の自由度が高く、想定外の事故が起きた際に人力に頼ったミッションを行える一方で、ソ連の宇宙船では想定外の事態が起きると乗組員は手をこまねいているほかなく、やむなく計画を中止して地球に帰還するよりほかありませんでした。ソユーズ1号は打ち上げが決定されてからも乗組員の訓練が不十分で、それまでの無人ロケットによるエラーが解消されていない中、半ば打ち上げが強行される形で行なわれました。
 当時、ソ連アメリカは冷戦構造による対立があり、それは宇宙開発でも競争という形で現われていました。そのためにソ連ではアメリカのアポロ計画が着々と月面着陸に向けて進められる中、開発を強行せざるを得ない事情を抱えていました。もちろん有人宇宙船を打ち上げる前に無人の宇宙船を打ち上げて問題点の克服を図りましたが、ソユーズ1号はその時点ではまさに打ち上げてみないことにはどうなることやらわからない、というほどの信頼性のかけらもない状態のまま、打ち上げが強行されたのでした。
 それでも心配された事故は起きず、ソユーズ1号は順調に打ち上げられ地球に帰還したのですが、最後の着地の段階でパラシュートが絡まった状態で開かず、地表に激突した衝撃で乗組員が死亡しました。
 アメリカのアポロが月面上の軌道を周回し、ついに11号で月面着陸を成し遂げてからは、ソ連は月着陸を諦め、同時に打ち上げられた宇宙船同士のドッキングや、宇宙ステーションサリュートを打ち上げてソユーズとドッキングさせる計画へと変更せざるを得なくなりました。
 その間もソユーズの信頼性は今ひとつで、ソユーズ6号は帰還時に帰還部分の切り離しが思うようにできず、大気圏の摩擦で燃え尽きる直前にかろうじて帰還部分が切り離されたものの、着陸の際に地表に叩きつけられ乗組員が重傷を負うという事故が発生しました。またサリュート1号とのドッキングに成功したソユーズ11号は、帰還部分切り離しの際に爆発ボルトの衝撃で気圧バルブが開き、船内の空気が漏れて宇宙服を着用していなかった3人の乗組員が全員死亡するという事故が起きてしまいました。
 大気圏突入から着陸まではほんの数分の出来事で、仮に宇宙船の空気が全て漏れてしまっても乗組員が宇宙服さえ着用していれば全員が死亡するという惨事には至らなかったのですが、狭いソユーズ宇宙船では宇宙服を着用すると2人しか乗り込むことができず、この時は3人を乗せて打ち上げたために宇宙服を着用していなかったのです。
 またハッチにはバルブを手動で閉める機構がありましたが、このバルブを完全に閉めるにはおよそ1分近くつまみを回し続けなくてはなりませんでした。着陸した宇宙船を調べると、乗員は空気の漏れ出た原因がこのハッチにあるということを探り当てており、バルブを閉める努力がなされていたこともわかりました。けれどバルブはおよそ半分程度しか閉められていませんでした。真空中でバルブが開いてしまうと、30秒から1分足らずで船内の空気は全て漏れ出てしまいます。このバルブの設計者は緊急時にバルブを閉める必要に迫られた際の状況を全く理解していなかったのです。
 幸いにも、人命に関わるようなソユーズの事故はそれ以来起きませんでした。またアメリカのアポロ13号は酸素タンクが爆発し、電気系統がダウンするという事故に見舞われ、乗務員の生命維持や地球への帰還が危ぶまれる危機的な状況に陥りましたが、残った燃料と地上の管制官と乗組員の尽力により、奇跡的に生還を果たしています。