さて、先日みずほ証券の担当者が、大阪の人材派遣業の新規発行株を、1株61万円で売り出そうとして誤って61万株1円と入力してしまったことがあり、証券会社や個人投資家が大儲けしたという話がありました。担当者はすぐに間違いに気づき、訂正しましたが、どういうわけか東証のシステムがこれを受け付けず、またこうした数値の入力間違いが明らかな売買は反映されないようになっている筈のシステムが、うまく働いていなかったということもわかりました。
 つまり東証のシステムは、ヒューマンエラーを未然に防ぐシステムが備わっていた筈なのですがこれが潜在的に働かなくなっており、そこに笑い話のような入力ミスが実際に起こってしまったために61万円の株券が1円で、しかも1株だけの筈なのに61万株も売られてしまったのでした。実際には、個人投資家は数十億の自己資産を投じて株を購入しており、その差額で5億だとか20億儲けたそうですから、単純に61万円で61万株を購入したというわけではないようですが、どちらにしてもヒューマンエラーとシステムエラーがたまたま重なった結果、二十数分で四〇〇億円超の損害を出した人と儲けた人が出たのです。
 これに対して、証券会社が誤った取引で莫大な利益を得るのはおかしいと、政治家が言い出したりしています。また儲けた証券会社の側も、その利益をそっくりいただくというようなことはしないようですが、取引が停止されるまでの僅かな時間のうちに、膨大な額の利益を確保した個人投資家も多くいます。デイトレーダーと呼ばれる人たちは、そうした短時間の株の売買で儲けようとしている人たちですから、証券会社がこれをやるのはけしからんけれども、個人投資家については仕方がない、ということのようです。
 もちろん証券取引をコンピュータに任せてしまうのでなく、実際に人間がやり取りしていればこんなエラーは発生しなかったでしょうし、仮に間違って61万株を1円で売り出そうとしても、それを真に受けて売ろうとする人はいないでしょう。人が交差点で交通整理をしていれば、車の流れが途切れるタイミングで別方向の待っている車を通しますが、信号は予め定められたプログラムに従って、車が来ない方向の道路に青信号を点して、進入待ちの車の列に対して赤信号を点し続けます。人間なら簡単に判断できることが、どうして信号にはできないのかと不思議に思いますが、それはできないのでなくやろうとしていないということなのでしょう。信号ごとに進入してくる車がいるか、進入待ちの車があるかどうかを感知するセンサーをつけて、それに従って信号を切り替えることは技術的にそれほど難しいことではありません。けれども全ての信号にそうしたセンサーを取り付ける費用は馬鹿にならないし、またセンサーに感応するような今以上に複雑な信号システムを導入しても、センサーの感知ミスや誤作動が起きるかもしれないという懸念があるのかもしれません。逆に人件コストより交通障害に伴うロスを優先させて、昔のように交通整理をお巡りさんにさせたり信号を切り替える人を配置したりしても、今度はその人間が間違えることで事故を引き起こすかもしれない。信号が頭に馬鹿がつくような単純なシステムで切り替わるようになっているのは、そうしたことを考えたうえで採り入れられて今まで続いているのでしょう。もちろん信号を儲けずに、ヨーロッパで見られるようなロータリー交差点を導入するとか、高速道路のような立体交差にしてしまうという方法もあるのでしょうが、用地買収やコストの問題でこの選択肢も現実的ではないということのようです。