11年前阪神淡路大震災が起きたこの日、大きく報道されることを嫌ったのか、宮崎勤被告に最高裁判決が下され、ヒューザー小嶋進社長への衆議院国土交通委員会証人喚問が行なわれ、さらに昨日の株取引終了後ライブドアに証券取引業違反容疑で強制捜査が入りました。そのどれもがこの欄で考察したい題材ですが、ひとまず本稿は小嶋社長への承認喚問について取り上げたいと思います。
 証人喚問を前に、小嶋社長が耐震偽装を知ったのはこれまで10月27日にヒューザー本社でイーホームズ藤田社長より指摘を受けたことによってとされていましたが、10月25日には既に小嶋社長は姉歯設計士に直接会って、耐震偽装が行なわれていたことを知っていたことが明らかになりました。これは小嶋社長が耐震基準が偽装されたマンションであることを知りながら販売した疑いを濃厚にするために情報筋からマスコミにリークされたのではないかと思います。
 さて、小嶋社長は昨年参考人招致が行なわれてからも、是非証人喚問に出席して身の潔白を証言したいと話していましたし、証人喚問に先立ってテレビ朝日の長時間に渡る単独インタビューにも応じ、耐震疑惑を巡る様々な事項を述べていました。ところがその証人喚問では、証言によって刑事訴追される恐れがあるからと、実に三〇回以上の証言拒否をしました。もっとも各会派の喚問に先立って行なわれた林委員長による総括質問では、小嶋社長は「違法性はない」と証言していますから、本当に小嶋社長の対応や行動に違法性がないのであれば、その後の喚問に対し刑事訴追を恐れて証言を拒否することは矛盾しています。そればかりか、共産党議員が「冒頭で違法性はないと証言しましたね」という確認に対してさえも証言拒否するに至っては、議院証言法の拒否権を盾に、証人喚問自体に応じようとしない態度と見えました。委員長による再三の注意がなければ、小嶋社長は全ての喚問を証言距離で遠そうとしたかもしれません。
 警察捜査に対して被疑者に黙秘権があるように、証人にも拒否権はあります。けれども国会の証人喚問は犯罪の立証を目的としているのではなく、真実の追究を目的としています。けれどもその場で自らの刑事訴追を恐れて頑なに証言を拒否する態度は、国会を、ひいては国民を愚弄するものに他なりません。ただしこれは、小嶋社長一人の意志で決められたものではないと思います。小嶋社長は本来、黙して語らない人ではなく、質問を投げかけられたり疑惑を持たれたりすれば頑なまでに自説を主張して相手を納得させようと躍起になるタイプの人です。
 証人喚問には補佐人をつけることと、発言によって刑事訴追される恐れがないかどうかについて補佐人の助言を受けることが認められています。小嶋社長は補佐人の弁護士から、何なら全ての質問について刑事訴追される恐れがあるかどうか助言を求めれば良いとか、少しでも刑事訴追される恐れのある事項に関連する証言を求められれば、全て拒否しても構わないというように、事前に吹き込まれていたのではないでしょうか。
 小嶋社長は先に参考人招致を受けています。けれども証人喚問は参考人招致とは法的に較べものにならないほどの重みがあります。
小嶋社長はきっと、証人喚問で多くの証言を拒否すれば理解も得られず反感を買う恐れがあるのではないかと懸念したのではないでしょうか。それで証人喚問の前にテレビ出演して、言いたいことを全て言っておけば、証人喚問で拒否をしても言いたいことはマスコミを通じて伝えられると考えたのではないでしょうか。
 けれどもテレビ出演では小嶋社長はお客様であり、全てを自らの脚本で演出することができます。小嶋社長は耐震偽装が騒がれ始めた時期に、先陣を切ってそうしたテレビ出演を行なっていました。けれども国民が求めていたのは小嶋社長による弁明ではなく、偽装されたことを知りながらマンション販売を行なった証拠を突き止めた国会議員による追及、或いはヒューザーが偽装を指示した証拠を突きつけられて小嶋社長が言葉を失い、やはりそうだったのかと納得することです。
 けれどもどの日に誰と会ったのかということや、どの日にこのような発言を行なったという基本的な確認でさえ証言を拒否する小嶋社長は、昨日のテレビではあれほど雄弁に語っていた姿と較べられてやはりとても怪しいのだという印象を持たれることになりました。証人喚問でしゃべらない分をテレビでしゃべっておこうとしたことは裏目に出た、と言うことになります。