滋賀県長浜市で、登園途中の幼稚園児二人が刺殺されました。逮捕された鄭永善容疑者は同じ幼稚園へグループ登園のために自動車で送迎していた三十四歳の母親で、容疑を認めています。動機は自分の子どもが仲間はずれにされているのは他の幼稚園の子どもが悪いと思い込んだためで、誰でも良かったがたまたま自分の子どもと一緒に幼稚園に送り届ける園児を殺害したとみられています。鄭容疑者は六年前に中国から来日し、日本人男性と結婚して谷口充江と名乗っていました。精神科への通院・入院歴があり、日本の言葉や習慣に馴染めないと悩みを漏らしたり、幼稚園に自分の子どもがいじめられていないかと屡々相談に訪れていましたが、近所の人はいつもニコニコした大人しい人だという印象を抱いていたようです。幼稚園のグループ送迎に関しては、自分の子どもが幼稚園で過ごしている様を確認したいとの意向から、個人送迎を続けていましたが、昨年九月以降はグループ送迎に参加していたとのことです。
■近年小学生や未就学児を狙った犯罪が横行しており、子どもをどのように守るかが大きな社会問題となっています。長浜市は小学校や幼稚園での集団登下校やグループ送迎を勧めており、この幼稚園でもその指導に従ってグループ送迎を実施していました。これは学校・幼稚園が保護者と一体になって子どもを守る取り組みです。しかしその保護者が他の家の子どもを殺害する事件が起きたことで、そうした取り組みが根本から問い直されることとなりました。同じ立場のPTAが子どもを殺害することは例外的な事例なのかもしれません。けれども今回の事件はグループ送迎という仕組みがなければ起きませんでした。そればかりか、自分の子どもの送迎を希望していた鄭容疑者にとっては、自分の意に反して他の保護者が自分の子どもを送迎することは、誤った過剰な思い込みを助長する役割を果たすものだったのではないでしょうか。グループ送迎が好ましいと一律に幼稚園がその方式を取り入れるのでなく、グループ送迎を希望する家庭がその方式を取り入れることで、この事件は未然に防げたように思います。

■近年、子どもを狙った犯罪が横行していることで、子どもをどのように守るかが大きな社会問題となっています。長浜市は子どもを守る取り組みの一環として、幼稚園でのグループ送迎を推進していました。なぜ個別の保護者による送迎でなくグループ送迎なのかとの素朴な疑問が浮かびます。鄭容疑者は幼稚園でグループ送迎が始まってからも個別送迎を続けていましたし、また勝手に自分の子どもだけを連れて帰っていたといいます。個別送迎を実施している保護者にグループ送迎にするよう指導することはナンセンスだと思います。子どもの安全のために保護者が付き添うというのが送迎の趣旨であり、個別送迎が自分の子供だけを守ろうとする自己的な行為で、日を決めて他の子どもも一緒に送り迎えをすることが周囲への配慮ある行為だと考えることは二次的なことであり、本質から外れています。希望によって個別送迎とグループ送迎を選択する方式がもっとも好ましいと思います。
 事件後、幼稚園ではグループ送迎を取り止め、個別送迎に切り替えましたが、保護者からは送迎バスの導入を希望する声が上がったといいます。子どもを毎日送迎することが重い負担になるということだと思いますが、送迎バスによる事故や送迎バスの運転手によるハラスメント行為というリスクを考慮した上での希望なのかどうか気に掛かります。