芸能人、とりわけ伝統芸能の世界に身を置く人間には社会性は求められないのだろうか。
落語家・林家正蔵氏が東京国税局に約2200万円の所得隠しを指摘され、これを含めた申告漏れの総額は、05年までの3年間で約1億2000万円にのぼるという。会見した正蔵氏は会見の中で、「この度は皆様にご心配をおかけしまして申し訳ありません」という言葉を用いた。
このニュースに接した「皆様」の大半は、林家正蔵のことを心配したわけではなく、落語家であろうとこれほどまでの多額な脱税をしていたとは許せないと思った筈だ。「意図的に所得を隠したつもりはなかったが、不手際があり正確な申告ができていなかったことを申し訳なく思っています」とでも言うべきである。「心配をおかけして」というのは全くの蛇足である。
別の報道によると、会見のこの部分は「私どものミスでご心配掛けて申し訳ない。ファンの方、ごひいきの方、お客様にはご心配をお掛けしました」となっている。これだと、正蔵氏はファンやご贔屓衆、そしてお客様に限定して詫びていることになる。気弱なキャラクターで他の芸能人にいじられていたこぶ平・・・もとい九代・正蔵が公的な会見の場で適切な謝罪ができなくとも致し方ないのかもしれないが、「見解の相違はありましたが」とも言っているところを見ると、落語家の確定申告はどんぶり勘定であり、もとより正確無比な申告は不可能であり多かれ少なかれ誰もが脱税していると、本心では開き直っているのかもしれない。
名跡を襲名した以上は、落語界を背負っているとの気風も正蔵には求められるのではないか。本人にそのつもりはなかったとしても、襲名披露の際に欠席して別に届けた祝儀が結果として申告漏れであったということは、国税局の見解では悪質な所得隠しなのであり、修正申告に素直に応じたとしても、正蔵の名前を汚したことに変わりはない。その汚名を濯ぐ機会にもなり得る会見で、それに失敗したお粗末な謝罪は、ある意味残念である。