ekiden_racer2008-06-19

【事故概要】
18日午前9時過ぎ、小6男児が東京都立杉並第十小学校の屋上にある明かり取り用の天窓から吹き抜けとなっていた約12メートル下の1階ホールに転落し、全身を強く打ち4時間後に死亡しました。
当時、歩数から歩幅の平均値を出すという算数の体験授業が屋上で行われていました。教師の引率で教室に戻る際、小6男児がドーム状の厚さ4ミリの強化プラスチック(アクリル樹脂/メタクリル酸メチル樹脂)製天窓の上に乗ったところ割れ、厚さ7ミリの金網入りガラスを突き破って落下したものです。
授業は2クラスを3つのグループに分けて行われ、3グループのうち2グループは教室内で歩数を測り、このグループは広い場所を必要とするという理由で日頃は施錠されていて立ち入ることのできない屋上に出ていました。校庭や体育館を利用しなかったのは、教室からは屋上への出入口が近く生徒の移動が他の教室の授業の邪魔にならないとの配慮からだったということです。

【事故原因】
事故の直接の原因は、小6男児が天窓の上に乗り、直径1.3mのドーム状の強化プラスチック製の天窓を踏み抜いてしまったことです。この天窓は1㎡あたり700kg超の荷重に耐えられる強度がありますが、上に人が乗ることは想定されておらず、一部分に荷重をかけたり衝撃を加えた場合には破損する恐れがあるとされています。ですので、事故を防ぐには人が上に乗ったりすることのないよう、防護柵を設置するなどの対策を講じる必要がありました。また児童は誤って天窓に乗ったわけではなく、天窓の上に乗って3回飛び跳ねていたとも言われています。
では何故防護柵が設けられていなかったのでしょうか。学校の説明によると、日頃は屋上は施錠されていて、児童が立ち入ることはできなくなっていたといいます。その反面、「学校の周囲を高いところから見てみよう」といった授業では、先生が生徒を引率し屋上を授業で利用するということがあったようです。つまり「児童が立ち入らないことを前提で設計されたため防護柵が設けられていないに関わらず、実際には児童が立ち入ることがあった」ということです。

【落下事故を死亡事故にしたもの】
児童が落下した天窓の下は、高さ12mの吹き抜けになっていました。このことで落下の恐れがある天窓と、落下すると重大事故が懸念される吹き抜けとが同居していたことになります。吹き抜けであるが故に天窓が必要となったのだと思いますが、天窓でなく通常の明かり取り窓にされていなかったこと、また天窓があっても吹き抜けになっていなければと悔やまれます。

【類似事故】
東京消防庁によると、過去3年間で計15人が天窓やガラス屋根から転落し15人がケガをしたそうです。このうち学校では05年11月青梅市内の中学校で屋上天窓から15歳の男子生徒が3階階段に転落、07年11月に青梅市内の各種学校で18歳の男子生徒が2階のガラス屋根から1階に落ちています。
他府県でも08年1月、群馬県桐生市の小学校で小5女児が清掃中、1階教室の屋上部分の金網入りガラス製の採光窓に誤って乗り割れて落下、07年3月愛媛県伊予市の小中学校で小6男児が屋上のガラス製の天窓の上でジャンプしたところ窓が割れ、約7m下の階段踊り場に転落しています。このケースは杉並の事例と似て、日頃入ることのできない屋上に家庭科の授業で作った昼食を食べるために出ていた際に起きています。01年9月、神奈川県横須賀市の小学校で小6女児が2階の屋上天窓に乗って飛び跳ねたところ割れて落下し、その下の階段に落ちて頭の骨を折る重傷を負っています。この際も教師がすぐそばにいて、天窓のそばで他の生徒たちと話をしていたといいます。

【事故は予見できなかったのか】
杉並第十小学校の他の天窓には、古い足跡がついていたことが判っています。これは以前から児童が天窓の上に乗って遊んでいたことを示すものです。天窓は3年に1回点検することになっていたということですが、そうした点検の際に足跡がついていることは容易に気づくことができた筈です。同じ東京都や同じ学校で類似した事故が何件も発生しており、また足跡という証拠が目の前にあったに関わらず、どうして天窓が危険を孕んでいるという認識を抱くことができなかったのでしょうか。
新聞報道でもそうした事故情報が教育委員会や市町村といった横の繋がりで事故情報が共有されなかったことが問題視されていましたが、私はこれはそもそも「天窓やガラス屋根が危険である」という認識を誰も持っていなかったことに問題があると思います。そこに危険があるとは誰も思っていないので、類似事故を自己の教訓として取り入れることがなかったのでしょう。ただ私はこの事故は、設計段階で防ぐことのできるものであったと思います。

【設計上の問題】
同校の設計士は「教育委員会から屋上は立ち入り禁止になると聞いていたので天窓用のフェンスを設置しなかった。屋上に人が立ち入るということを知っていれば、フェンスを作っていた」と語っています。けれどもこの設計士は、自分が引いた図面で、最上階から屋上に通じる階段と、屋上に通じるドアを同時に設計しています。階下で火災が発生するなどの非常時に、最上階にいる人は屋上に避難することも考えられるので、立ち入り禁止である屋上に非常用の通路とドアを設置している訳です。
教育委員会や校長が「屋上は立ち入り禁止」にすることにしていたとしても、非常時には屋上に人が立ち入ることがあることは設計士も判っているのです。そして天窓が人が乗ると破損し落下する危険があることを知っていれば、フェンスを設置するべきでした。火事で屋上に避難した人が天窓を踏んで落下しないようにするために、です。
もしも天窓からの人の落下を防ぐということを最優先して、屋上に人が立ち入れないようにするのであれば、屋上に通じる階段を設けなければ良いのです。フェンスの設置費用をケチるのであれば、階段とドアの設置費用をケチった方がずっと安上がりで済みます。また写真を見ると、天窓の周囲には配管や通気口らしき構造物が集まっています。設計士は天窓の為だけにフェンスを設けるのでなく、そうした屋上構造物の集められた一帯を立ち入り禁止にすべくフェンスを設けるというのが設計上の正解だったと思います。
或いは天窓自体に落下防止用の金網を設けるとか天窓を水平でなく斜めにするようにすれば、そもそもフェンスがなくとも良かったかも知れません。