■長野県議会が百条委員会における田中康夫知事の証言が偽証であると認定し、長野地方検察庁地方自治法違反となる偽証罪として告発しました。田中知事の元後援会長が下水道工事業の社長であり、同社が県発注の工事を受注しているのですが、その際知事からの働きかけがあったのではないかとの疑惑が浮上し、長野県議会は百条委員会を設置しました。その百条委員会で働きかけがあったと証言する幹部が一名いるのですが、田中知事や関係部局の幹部は働きかけはなかったと証言しています。両者の証言が食い違っているのでいずれかが偽証であることになるのですが、百条委員会は働きかけがあったことを示す証拠を入手したわけではなく、働きかけがあったとの証言が事実であり、知事や部局長の証言が偽証であると多数決により認定しました。
 これだけでも偽証認定が極めてあやふやな根拠を元にしているとしか思えないのですが、実際の証言内容はある幹部が知事から証拠となる書類を破棄するよう指示があったというのに対し、知事はそのような指示はしていないというものです。百条委員会はこれを書類を破棄しないよう指示できる立場であったにも関わらず、それをしなかったことは破棄を認めたも同然だ、とこれも多数決により認定しているのです。
 つまりは百条委員会は働きかけがあったかどうかも明確な証拠を示して明白にできておらず、それが偽証に当たるのかどうかも議論の余地がある状態で、働きかけがあり知事は偽証をしたと認定しているのです。
 なぜ県議会はこのような苦しいこじつけじみた結論を導いて、知事を告発したのでしょうか。
■田中知事と県議会はこれまでも対立を繰り返し、県政は停滞している状態です。今年8月に県知事選があるのですが、田中知事はこれまで出馬について態度を言明していません。県議会としては県政の停滞を打破するために、田中知事の再選を阻止したいという狙いがあります。知事が不出馬を表明してくれればそれに越したことはないのですが、知事が態度を明らかにしないために議会の権限を最大限に活用して、不出馬ないしは再選阻止を目指して百条委員会を立ち上げた。しかしそこで知事の働きかけがあったと認定しても、田中知事が出馬して再選されれば元も子もなくなるので、次の手として地検に告発したものと推測されます。
■ここで、以前県議会が田中知事を不信任として失職に追い込んだことを思い出してください。県議会は不信任を突きつけることで知事に議会の解散か失職の選択を突き付けたのですが、県民に高い支持率を誇る田中知事は失職を選び、出直し選挙で再選されました。ここでの県議会の失敗は、県議会が知事を信任しないという態度を表明しただけで、選挙に勝利できる対立候補を擁立できなかった点にあります。
 今回の百条委員会の設置、並びに告発は県議会の態度表明に加え、知事の政治姿勢を問うものですが、さらに田中知事に対抗できる候補を擁立できなければ、田中知事が立候補すれば不信任の失敗を繰り返すことになります。さらに百条委員会は知事に対する疑惑をクローズアップしたものの、県議会の調査能力の低さも露呈させてしまいました。そこで司直に偽証であることの判断を仰ぐことで、働きかけがあったことと偽証があったことの2点を証明したいとの思惑から告発したわけですが、逆に働きかけがあったと認められず、偽証であるとは言えないとの判断が下されれば当の県議会の立場が悪くなってしまい、田中知事が立候補した場合には追い風になってしまいます。
 今のところ、起訴されることになるのかどうかもわからない状態ですが、仮に公判が選挙期間に及んだとしても肝心の対立候補次第で選挙結果は左右されることになってしまいます。つまりは県議会は知事に大きなダメージを与えたつもりでいても、田中知事に対する批判と同様知事の姿勢に反する県議にも批判は強いので、その県議が推す候補が果たして田中知事に対抗できるのかどうかが大きな疑問として残ります。
■検察や警察が、どのような捜査をしてどういう結果を出すかは私にはわかりません。ですが、田中知事が次の知事選挙に立候補してくれさえすれば、長野県民は自分の判断で知事への裁定を下すことができます。けれども立候補しなければその機会は失われ、全てが他人の意向によって裁定が下されていくのを、指をくわえて見ることしかできなくなってしまいます。