■決勝に向けて
 日本チームにとって、準決勝は負けられない試合でした。仮に準決勝の相手がアメリカであれば、そしてメキシコであったとしても、準決勝で負けてもアテネ五輪でオーストラリアに負けた時のように、世界大会やトーナメント戦に対する課題を負って帰国するだけの話です。ところが予選リーグで韓国に2敗したことで、様相はがらりと変わってしまいました。日本は同じアジアの韓国の実力を知っています。日本の韓国に対する評価は、決して侮れない相手だけれども格下であるので勝って当然だというものでした。それもただ勝つだけではなく、今後三十年は日本とやりたくないと思わせるほどの勝ち方をしなくてはなりませんでした。
 報道の発端はイチローの発言でした。イチローは決して、韓国チームに対してそう発言したわけではありません。中国も台湾も韓国も、どこに対しても日本にはとても歯が立たないと思わせるような戦いをしたい、と言ったのだと思います。ところが中国や台湾より力は上回るとの自負があった韓国の受け止め方は違いました。韓国はかねてより日本に勝つことを悲願としていますし、実際にバルセロナ五輪では日本に勝っています。日本が韓国を過小評価しているとすれば、札幌で行なわれたアテネ五輪の予選で、台湾に敗戦して五輪出場を果たせなかったことから来ているのだと思います。ところが韓国ではこの台湾との思わぬ敗戦を「札幌の屈辱」と呼んで、次なる国際大会でのリベンジの機会をずっと窺っていたのです。
 ところが結果的に、格下だと思っていた韓国に二連敗したことは、イチローの言葉を借りるまでもなく、日本にとって最大の屈辱でした。そして準決勝は、棚ぼた式に与えられた、願ってもないリベンジの機会だったのです。
 今回の日本チームにとってのハイライトは、連敗していた韓国に完璧な勝ち方をした準決勝だったと思います。日本にとって悲願となった韓国に勝利してしまったことで、決勝へのモチベーションは今ひとつだったように思います。
■最強のアマチュアチーム・キューバ
 かつて野球の国際試合がアマチュア選手しか出場できなかった時代、日本はキューバに全く歯が立ちませんでした。松下電工の小池(後に近鉄に入団)が親善試合で完封したことが未だに伝説的に語られるほど、キューバは強かったのです。それでも日本は先のアテネ五輪金メダルのキューバに勝っています。試合はやってみないとわからないけれども、決して負ける相手ではないという自信はキューバに対して持つことができていたと思います。むしろ心配なのは志気が準決勝で燃え尽きてしまい、モチベーションが今ひとつだった点だけです。
■勝敗を分けたもの
 決勝で日本は後攻でした。そして一回の表、日本にいきなりチャンスが巡ってきます。一死満塁から死球と四球で押し出しの二点を先制します。キューバチームの立ち上がりを攻めた、というよりももらったような先取点ですが、それでもここでキューバの投手陣が踏ん張り、自力での得点を与えなければ、流れは違っていたと思います。私は初回の2点タイムリーヒットが、決勝戦の勝敗を分けたと思います。実際にキューバは驚異的な粘りを見せ、一時は6対5と一点差にまで詰め寄ります。