リンナイ製の不完全燃焼防止機能付き開放式小型湯沸かし器で2000年以降5件の一酸化炭素中毒事故が発生し、3人中毒死していたことが経済産業省ガス安全課の発表により明らかになりました。
開放式湯沸し器とは屋外への排気口がない湯沸し器で、湯沸し器自体に換気装置がなく、使用の際には窓を開けるなどして換気をしないと酸素が十分に供給されない状態での燃焼により不完全燃焼が生じやすくなります。
不完全燃焼が起きると一酸化炭素の発生量が急激に増え、中毒症状が起こりやすくなります。一酸化炭素は酸素より250倍赤血球中のヘモグロビンと結合しやすく、血液の酸素運搬能力を低下させ中毒症状を引き起こします。軽症では頭痛・耳鳴・めまい・嘔気などの症状が起こり、高濃度の一酸化炭素を吸った場合には自覚症状がなく急激に昏睡に陥り、呼吸・心機能が抑制され死に至ります。
従って解放式湯沸し器を使用する場合はユーザーによる換気は必須であり、さらに15分以上の連続使用を禁じていますが、メーカーでも一酸化炭素中毒が起こる前に自動消火する不完全燃焼防止機能を器具に持たせて事故を防ぐ努力をしています。ところがパロマ製の換気機能付き湯沸し器ではこのセンサーに不具合があり、異常ではないのにガスを止めてしまう誤作動を引き起こすため、販売店が独自に不完全燃焼防止装置を経由しない短絡改造をしていた結果、一酸化炭素中毒で過去20年の間に21人もの中毒死事例が発生してしまっています。今回のリンナイの事案では不完全燃焼防止装置がすすなどで正常に機能していなかったと見られています。
今回事故があったと報告されたのは都市ガス用の「RUS―5RX」とLPガス用の「RUS―51BT」、リンナイが製造し東京ガスが販売した「RN―405SD」の3機種で、91年7月から97年1月まで計約115万台が製造・販売されました。具体的な事故事例は00年1月30日に東京都荒川区で3人が中毒▽03年10月26日に豊島区で女性(70)が死亡▽04年2月1日、鹿児島市で7人が中毒▽同年12月25日、広島市南区で少女(15)が死亡、少女の父と兄の2人が中毒▽今年2月7日、横浜市鶴見区で男性(61)が死亡の5件で、12人が中毒症状を起こし、うち3人が死亡しています。
このうち04年までに発生した4件については発生時に換気が行われておらず、内部に多量のほこりが付着して吸気不足を起こしており、不完全燃焼防止装置の周辺にもすすが付着して装置が正常に働かない状態だったことが判っています。また都内と広島の事故では、装置が作動と停止を繰り返した形跡が見つかっており、装置が不完全燃焼を検知して作動し消火し、何度も点火を繰り返すうちに事故が起きた可能性も指摘されています。
家庭内には意外に危険の種が潜んでいるのですが、日常的に使用しているうちにその危険性の認識は薄らいでゆくものです。電気製品も濡れた手でプラグの差し入れをすると感電の恐れがありますし、ストーブやコンロには火傷の恐れがあります。火鉢や七輪で炭を燃やす際には一酸化炭素中毒の恐れがありますから換気をしなくてはなりませんが、それでも毎年多くの人が中毒症状を起こしています。04年に東京消防庁管内で一酸化炭素中毒は55件発生しています。それでも様々な機器には安全装置が取り付けられるようになり、そうした危険性は人々の目から見えづらくなってしまっているのではないでしょうか。また安全装置がついているから安心だ、という心理が働いてしまうのかもしれません。
それでも毎日生活をする家庭内に、使い方を誤ると死に至る恐れのあるものを持ち込むことは、必然的に事故を招く危険を伴います。それでも手を触れれば火傷を負うストーブに較べれば湯沸し器の危険性は認識しづらいでしょう。倒したり傾いたりしたときに消火装置が働くストーブの機能のシンプルさに較べると、不完全燃焼を起こして消火装置が働く湯沸し器の機能は大変複雑でわかりづらいものです。火が消えた理由が不完全燃焼だと思い当たっても、換気扇を回したり窓を開けることでストレートに消火装置が復帰する訳でもありません。湯沸し器の不完全燃焼防止機能は、どのような使われ方をするか想像が及ばない家庭用機器の安全装置としては、ついていないよりはマシではありますが、まだまだ不完全なものだったと言わざるを得ないように思われます。
関西で育った私は子どもの頃に見た大阪ガスのキャンペーンCMを未だによく覚えています。都市ガスが天然ガスに切り替わる際の「天然ガスをあなたの街に」や、「ガス湯沸し器、つけたその手でハイ換気」(ついでに言えば明石家さんまの「頼れるエースはアンダースロー」なんかも…)などがそうです。松下電器が大量にスポットCMを流して欠陥のある暖房器の通報を呼びかけたように、メーカーはもっと危険性の周知と安全な使用法についての広告を行うことも有効ではないかと思います。