耐震偽装建築問題に関して、耐震強度が基準の半分に満たないマンションの住民に対して、2年間の期限で引っ越しの費用と家賃の3分の2(上限10万円)が補助される見通しである。立て替えか買取りかの目処も立たず、さらにローン返済も抱えている(ローンの支払いも二年程度猶予されるらしい)住人に対し、地震で倒壊の危険性がある建物から退去させるための一時的な援助だが、無論これは根本的な解決策ではない。その責を負うのは販売主であるヒューザーやシノケンであり、本来なら引っ越しや一時的な移転先の費用についても彼らが負担すべきものである。当初ヒューザーの小嶋社長もそう明言していた筈だが、どうやら企業の体力的にそれができないらしいので、行政が手を差し伸べたという格好のようだ。これには建築審査に自治体が関わっていたり、以前は全て行政が行なっていた検査業務を民間に開放した政策の失態であるということと無関係ではないだろう。
 ただし、行政が斡旋した移転先では家族五人で暮らすのに狭すぎるから、とか、今のマンションよりも通勤に不便だからという理由で移転を拒む人がいるということを聞くに及ぶと、一体全体耐震偽装マンションの何が問題なのかわからなくなってくる。ヒューザーは安くて広く交通のアクセスの良いマンションを提供することで業績を伸ばしてきた会社であり、その住人はその広さと交通の便の良さでそこを住まいと定めた人たちだ。自分たちに何も悪いところはないと言っても、詐欺商法に引っ掛かった被害者の損失は第三者が補填してくれる道理がないし、そもそも通常の商取引に於いても相手先が倒産してしまえば債権が露と消えてなくなることもある。詐欺商法に引っ掛かった被害者や取引先が倒産して損害を蒙った商人に、よくよく相手のことを調べないで手を出すからそういうことになるのだともっともらしい説教を唱えるなら、耐震偽装マンションの被害者に対しても、それだけ条件の良い物件には何か裏があると疑わなかったあなたが悪いとしか言えなくなってしまう。もちろん建築基準法に基づいた建築確認が必要である以上、詐欺商法と耐震偽装は同列に扱えないかもしれない。しかし建築基準法の違反罰則が甘く、確認申請がザルであるという現状を踏まえると、そこに詐欺的商法が入り込む余地があったというのが現実ではないだろうかという気がする。