■二月八日の記者会見で幕を開いたニッポン放送株を奪い合う形で繰り広げられたライブドアによるフジテレビの買収劇は、ソフトバンクインベストリーがフジテレビの筆頭株主となるという形で幕を閉じようとしている。昨年もライブドア楽天が、言ってみればオリックス近鉄が合併して押し出された格好の選手を集めた球団への参入に火花を散らす一方で、ソフトバンクは秘密裏に交渉を進め、ペナントレース一位のダイエー球団の買収を成功させた。
 ポータルサイト・プロバイダ運営のライブドアは業界トップのソフトバンク・ヤフーに追いつき追越すことを企業あげての目標に掲げているが、本業でもなかなかヤフーにはかなわないないどころか球団買収でもフジテレビ乗っ取りにおいてもその力の差をまざまざと見せつけられた格好となった。ニッポン放送やフジテレビといった異業種を相手にしている分にはライブドアは金の力と商法によって買収を仕掛ける強みを発揮できても、そこに同業トップのソフトバンクが出てきては打つ手がなくなってしまう。ライバル会社がバックについたのでは業務提携という友好的な手段は取りづらくなるし、敵対的な買収を進めようにも金融会社も融資に躊躇するだろう。
 ソフトバンクはかつてテレビ朝日買収に乗り出し苦杯を舐めたことがある。今回はフジテレビを買収しなくとも、友好的な関係を築くきっかけとなり収益をあげられるうえにライバル会社のライブドアを封じることができるのだから、一つの提携で三倍おいしいというわけだ。
 ライブドア堀江貴文の手法は、目の付け所はいいけれど、最後までやり通すまでの戦略は持ち合わせていなかったということなのだろう。彼はニッポン放送やフジテレビがライブドア対策を打ち出す度に「想定の範囲内です」と答えて、着々とニッポン放送株の買収を進めた。しかしフジテレビの筆頭株主ソフトバンクが名乗りをあげることまでは想定できなかったようだ。そしてそれ以前に友好的提携へと方針転換する可能性を想定していたなら、ラジオを過去のメディアとしてニッポン放送を支えてきた従業員を否定するような発言はなされなかった筈だ。彼は全てを見通すような想定をしていたわけではなく、単にフジやニッポン放送の対抗策を封じる手段があるという意味でそう言っていたに過ぎない。もっとも失敗に終わることも予め「想定」していたのであれば、何が起きても「想定の範囲内」と言い通すことは可能だ。
 思えばプロ野球参入問題の時に、ライブドア堀江貴文は金さえあれば何でもできるという自らの神話を崩壊させただけでなく、救世主面をして華々しくマスコミを騒がせながら実際には正義の味方でも何でもない、先の見通しも持たないただのお騒がせ者だという正体を露わにしていたのではなかったか。そしてニッポン放送買収劇では、大きなフジテレビの親会社が小さなニッポン放送であるというところに目をつけ、現行法制度の不備を衝いた買収劇を展開し、新株予約券の発行停止を命じる仮処分を勝ち取ることで一泡吹かせただけで、結局去年の失敗から何も学んでいない懲りない挑戦者ぶりを見せつけてくれただけのように思われる。