旧聞になってしまいますが、去る3月27日、NHKにて「プロフェッショナル仕事の流儀・宮崎駿〜創作の秘密」が放送されました。新作映画の準備に取り掛かっている宮崎駿に密着して、アニメーション映画の創作の秘密を浮かび上がらせるというのが番組の意図だったと思うのですが、見ていて一番心に引っ掛かったのは宮崎駿の創作に対する姿勢を語るシーンではなく、並行して製作されていた「ゲド戦記」の監督、長男吾朗との関わりに触れたシーンでした。
まずは冒頭近く、アニメスタジオに入った駿がすぐに戻ってきます。
「息子が色指定やってるから逃げてきた」
「会わないようにというより近寄らないようにしてる」
「不愉快だからに決まってるじゃないですか。僕、そんなに人間ができてませんからね」
宮崎駿は長男の吾朗がアニメ映画の監督をすることに対し、「あいつに監督ができるわけがないだろう。絵だって描けるはずがないし、もっと言えば、何も分かっていないやつなんだ」と反対していました。またゲド戦記シリーズに対して宮崎駿の思い入れは大変強く、風の谷のナウシカなど自分の作品にその影響が色濃く反映していると言います。
2003年にゲド戦記の原作者ル=グィンからスタジオジブリにアニメーション映画制作のオファーが来たのですが、当時駿はハウルの動く城を製作中であったこと、宮崎駿高畑勲が高齢であり後継を考慮してプロデューサーの鈴木敏夫が長男吾朗の監督起用を決めました。原作者ル=グィンは映画製作プロジェクトは常に駿の承認を受けながら進められるものと了解していたようですが、実際には駿は映画制作に全くタッチしていなかったのです。
宮崎駿は何でも見事な手腕でできてしまう為に、スタジオジブリでは後進が育たないと言われています。外部から人が招かれ制作にタッチしながら、結局は監督予定者が降板し、宮崎駿が監督するという事態が生じています(魔女の宅急便ハウルの動く城)。もしもゲド戦記宮崎駿が何らかの形で関わっていれば、「何も分かっていない」吾朗に成り代わって、自ら製作総指揮=監督をしかねなかったのではないでしょうか。或いはそこで激しく監督吾朗との対立が起きたかもしれません。
吾朗の映画製作が始まってから「近寄らないようにしてる」のは、もしかすると吾朗に遠慮してのことなのか、或いは近寄れば対立が避けられない自分の気性を知って避けていたのではないか、テレビを見ていてそんなふうに思ったりもしました。(つづく)