大阪吹田市の遊園地・エキスポランドのローラーコースター「風神雷神Ⅱ」(6両編成・24人乗り)で車軸折れが原因で、脱線した2両目のゴンドラに乗っていた女性(19)が点検用通路の手すりに頭部などを打ちつけ死亡するという事故が起きました。
【事故原因と死因】
《事故原因》は金属製の車軸が溶接ミスなどの工程上の問題か金属疲労により折れたことが原因でゴンドラの左側の台車部分が欠落、結果として脱線状態となりゴンドラ部分が大きく傾きました。《死因》は搭乗者がゴンドラが傾いた為に点検用手すりという障害物に頭部などを打ちつけたことによります。
【コースターの安全バー】
風神雷神Ⅱ」は立ち乗りコースターと呼ばれるタイプのローラーコースターで、乗客はゴンドラの上に直立した姿勢で乗ります。頭部を保護するバーと両腕で抱え込み上半身を包み込むバー、そして腰部を安定させる補助バーの三つのバーがあり、乗客はこれらのバーを頼りに両足を踏ん張ります。頭部のバーは頭を大きく包み込むような形で設置されており、この頭部バーに十分な強度が持たされていれば、ゴンドラが傾きバーが手すりに接触しても乗客の頭部は守られていたかもしれません。ところが事故車両を見ると、背もたれ部分が後ろに捻じ曲げられ、頭部のバーは根元から折れています。どうやら頭部のバーは自動車のシートのヘッドレストのように、頭を支え首への負担を防ぐ緩衝効果を目的としており、フォーミュラカーヘッドレストのように車体が横転してもドライバーの頭部を保護する目的や強度は持っていなかったように思われます。
【アクティブセーフとパッシブセーフ】
ローラーコースターなどの遊具は、想定外の事故が起こらないよう十分な強度を持たせた設計=アクティブセーフの思想設計で作られています。ところが万一の事故が起きた場合に、事故を防いだり被害を小さくするためのパッシブセーフやフェイルセーフの仕組みはあまり考えられていないようです。例えば異常を検知した際に、制動を掛けて事故を防いだり被害を軽減する仕組みがあっても良いように思うのですが、むしろ複雑な機構や自重の増加を避け、極力シンプルな機構を持たせることで安全を留保しようとしているように思えます。
【コースターに何が起こったか】
コースターの線路は太い主柱とレールに当たる左右二本の支柱で構成されています。左側の車軸が折れ、支えをなくしたゴンドラは残った右側の台車だけで支えられる状態になり、大きく左に傾きました。前後車両とは連結器で繋がっていますが、ゴンドラを支えるほどの役割は持っていません。ゴンドラを左右の車軸だけでなく、ゴンドラの真ん中に主柱をレールにした車輪があれば、ゴンドラが脱線しても傾くことは防げたかもしれません。
【点検用通路と手すり】
乗客を襲ったのは点検用の手すりでした。点検用通路とは言うまでもなく、コースターのレールの保守点検の為に設けられた通路であり、万一の場合は乗客の避難用通路としても使われます。また地上数メートルの位置にあるため、通路の安全を確保する為に手すりが設けられています。安全の為の手すりが障害物となり凶器になったのは、大変皮肉なことです。手すりの設置位置が万一台車が欠落して傾いた場合でも接触しないよう余裕を持たせた位置にあれば、手すりが乗客を傷つけるということはなかったことでしょう。それは想定外のことであったかもしれませんが、ここにもパッシブセーフの欠如が見受けられます。
【安全を確保するために】
製作工程に問題があればいつ事故が起きるか判りませんし、部品の耐用年数を区切って交換・更新していなければいつかは壊れて事故が起こります。設置されて一年間は初期不良による事故のリスクが高く、何年か以上経過すれば劣化・疲労による事故リスクが高まっていきます。「風神雷神Ⅱ」は1992年に設置され、製造したトーゴという会社は既に倒産しています。遊園地の経営が順調であれば、念入りな保守点検ができるだけでなく、古くなった遊具は順次新しくより安全なものに入れ替えていくこともできるでしょう。けれど現実には少子化の影響でどこも遊園地の経営は厳しく、経営者にそのつもりはなくても遊具は老朽化し、安全点検に十分なコストを掛けるということができず、その安全性はかなり損なわれているというのが現状だと思われます。