松岡利勝農林水産大臣が自殺しました。戦後の現職大臣の自殺は前例がないとのことです(終戦時に阿南惟幾陸軍大臣が割腹自殺しています)。
松岡大臣には多くの疑惑が掛けられていました。大臣になってからも資金管理団体による事務所費問題、そして現在は官製談合捜査中の緑資源からの献金が大きく報じられています。東の鈴木西の松岡と揶揄されたほどの利権族議員の代表格ゆえ、過去の主だった疑惑を一覧にまとめようと思ったのですが、あまりに件数が多く断念しました。
過去にこれだけ多くの疑惑を掛けられながら、安部内閣で初入閣を果たすくらいですから、疑惑をものともしない打たれ強さと、強い影響力を持つ林野庁農林水産省をバックに強い政治力を併せ持つ政治家なのでしょう。ですので引責辞任はおろか、自殺とは縁遠いイメージがありましたので、自殺したというニュースには大変驚かされました。
そもそも事務所費問題では「ナントカ還元水」という大失言をしながらも後に「現行法に基づいて適正に報告しております」と強弁し、緑資源からの献金は既に返却したという松岡大臣が自身に掛けられた疑惑程度で自殺する筈がありません。松岡大臣安部内閣の方針によって自殺に追い込まれたのです。安部晋三松岡大臣を殺したと言っても良いと思います。

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安部内閣は高い支持率をバックに郵政改革を成し遂げた小泉内閣の後を受けて誕生しました。発足の翌年に参議院選を控えており、高支持率を維持して選挙戦を有利に戦うのが安部内閣の当面の課題でした。ところがほどなく本間正明前政府税調会長が公務員宿舎入居問題で辞任、佐田玄一郎行政改革担当相が事務所経費問題で辞任します。これにより安部内閣の支持率は低下します。さらに追い討ちを掛けるように柳沢伯夫厚生労働大臣の「産む機械」発言、そして松岡利勝農林水産大臣の事務所費問題と相次いで大臣の辞任が求められる事態が発生します。安部総理がリーダーシップを発揮してこれらの大臣を解任するか、それとも大臣が引責辞任するか注目が集まる中、安部内閣はこれ以上大臣の辞任が相次ぐと単なる支持率低下では済まず、安部内閣の瓦解を招きかねないとの危機感を抱くようになります。そして安部総理はそうした大臣を擁護するという立場を一貫することで、この危機を乗り越えようとします。大臣の任命権者としての責任や閣僚への指導力に対する疑問が問われる一方で、そうした揺るがない安部総理の姿勢は評価され、支持率の低下に歯止めを掛けることに成功しました。
つまり安部総理は自らの内閣の命脈を保つ為に、柳沢大臣松岡大臣の辞任を許さなかったのです。いわば二人の辞任を免れない筈の大臣は、安部内閣の犠牲にされたのです。
柳沢大臣はなんとか失言による辞任の危機を乗り越え、松岡大臣も適正に処理しているとの答弁一辺倒で危機を乗り越えようとしました。けれども事務所費問題で疲弊していた松岡大臣は、続く緑資源献金問題でさらなる窮地に追い込まれます。安部総理の擁護により辞任が許されない一方で、身内である自民党金子一義衆院予算委員長からも「国会終了後に辞任すべきだ」という声があがります。

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松岡大臣が世論に押され、辞任せざるを得ない状況に追い込まれていれば、大臣職を失っても命を絶つことはなかったでしょう。何があっても辞任させないと大臣を擁護する安部内閣の方針が、死ぬことでしか大臣を辞めることができないところにまで松岡大臣を追い込んだのです。

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